シュラ・思い出
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思い出1
シュラ
皆様初めまして、
私は鬼族の武人、シュラと
申します。
アイリス
よろしくおねがいします、
シュラさん。
キャトラ
礼儀正しい人ね。
シュラ
人ではありません。
私は百鬼夜行を率いる鬼です。
シュラ
人の子より恐れられ、さげずまれ、
憎まれる、異形異能の種。
シュラ
古の神にも匹敵する、
この世ならざる一族の、末席に
ございます。
キャトラ
そうなの。
まあ、ゆっくりしてけばいいわ。
シュラ
おやおや、この島の方々は
実に呑気ですねぇ。鬼の恐ろしさを
ご存じないと見える。
キャトラ
確かにご存じないけど？
シュラ
教えて差し上げても
よろしいのですが、私としては、
そんなことはどうでもいいのです。
アイリス
何かご用ですか？
シュラ
ええ。こちらには、お土産屋さんは
ありませんか？
キャトラ
えーっと……あったっけ？
飛行島のおみやげ。
アイリス
さあ……？
シュラ
いけませんね。飛行島は
今や世界中に注目される
観光の名所。
キャトラ
確かに空を飛んでいる島なんて
なかなか珍しいものね。
シュラ
名高い観光地には、
それなりのお土産が
あってしかるべきものです。
シュラ
まったく……
わかってませんねえ。
アイリス
そうなんですね。
シュラ
仕方ありませんね。この近くの島で
何か買っていきますから。
シュラ
まったく、近頃の観光地と来たら。
アイリス
……観光客さんだったのね？
思い出2
キャトラ
このウッドソード、なんで
わざわざ『ひこうじま』って
描いてあるワケ？
アイリス
バロンさんが作ったんだって。
お土産といったらこれだろうって。
キャトラ
まさか、飛行島のお土産？
この旗も？
飛行島の絵が描いてあるわね。
アイリス
旅の風景画家さんに
描いてもらったんだって。
キャトラ
あとはこの……クッキー？
アイリス
ヘレナさんがつくったクッキーよ。
まだ試作品だって。
シュラ
……あなた方は、お土産をナメて
ませんか！？
キャトラ
あ、お土産評論家さん。
シュラ
鬼です！
アイリス
せっかくですので、お土産を
作ってみたんです。
シュラ
それは大変殊勝な心がけです。
ですけどねぇ。
なんですか今時ウッドソードって。
キャトラ
お土産の定番らしいじゃない。
シュラ
そりゃウッドソードは定番ですよ。
地名の書いたウッドソードはね。
シュラ
でも、飛行島らしさ皆無です。
この島ならではの特徴が
ほしいですね。
キャトラ
この旗はどう？
シュラ
絵はすばらしいですが、
やっぱりコレという個性が
感じられません。
アイリス
個性ってむずかしいんですね。
キャトラ
クッキーは？
シュラ
……形が問題ですね。
もっとこう……あるでしょう。
飛行島らしさってものが。
キャトラ
何か参考になった気がするわ。
多少ムカついたけど。
シュラ
というわけでそこのウッドソードと
旗、いただけますか？
アイリス
は、はい。ありがとうございます。
お値段は……
キャトラ
結局買うのね。
思い出3
シュラが、変な人形をもって
やってきた……
キャトラ
あら、お土産マニアの
観光客さん。
シュラ
鬼です！
そろそろ本当に鬼の恐ろしさを
知りたいようですね。
アイリス
それ、お土産ですか？
シュラ
その通りです。ご覧ください、
この胡散臭い人形を。
これこそがお土産ですよ。
アイリス
面白い顔の人形ですね。
キャトラ
よくできてると思うけど？
何が胡散臭いワケ？
シュラ
この人形はとある遺跡にある
石像のレプリカなのです。
キャトラ
ああ、そういうこと……
たしかに胡散臭いわ。
シュラ
実に奇怪な代物です。
まったく意味がわかりません。
シュラ
遺跡に観光にいったからといって、
わざわざニセモノを買って
どうするんでしょうね？
キャトラ
旅の記念ってことでしょ。
シュラ
旅の思い出に未練があるのですね。
あさましい限りです。
シュラ
実際に見た景観に、レプリカが
及ぶはずもないというのに。
キャトラ
マニアのアンタが
お土産にケチつけるわけ？
シュラ
私は別にお土産マニアでは
ありません。鬼です。
シュラ
私は人間のなんたるかを
研究するために、こうした
サンプルを集めているのです。
アイリス
どうしてそんな研究を
されてるんですか？
シュラ
人間に勝つためです。
キャトラ
勝つ……って。
シュラ
我が故郷である鬼ヶ島は、
人間と敵対しています。
現在戦いは小康状態。
シュラ
だが両者は常に一触触発
予断は許しません。
アイリス
大変な状況なんですね。
シュラ
よって私は威嚇と研究を兼ねて
旅に出ているのです。
シュラ
鬼の恐ろしさを伝え、
人の愚かさを確かめるために。
思い出4
キャトラ
討伐お疲れ様。
シュラ、アンタって強いのね。
アイリス
おかげで助かりました。
シュラ
別にこの程度なんでもありません。
我々は、戦いを好む鬼ですから。
キャトラ
たしかに、戦ってるときのアンタ、
楽しそうだったわ。
シュラ
鬼というのはそういうものです。
戦いにおいては、
鬼の異形と異能は、力となる。
シュラ
この私も、百鬼夜行を率いる力を
宿しています。＜鬼＞と呼ばれし
存在の魂を率い、操る力が。
シュラ
この世を怨む鬼の魂は、
人を害することしかできません。
されど……
シュラ
普段は疎まれる鬼の異形が、
戦では花となるのです。
キャトラ
そんなに嫌われてるワケ？
ひどい話。
シュラ
ええ、実に醜い話です。
どうしてわれらが
嫌われるのか、ご存知ですか？
キャトラ
わからないわ、どうして？
シュラ
人と鬼は異なる種。
異なることは争いの種。
シュラ
そして争いを止めるのは、
愛や思いやりではない。
アイリス
……それは、なんです？
シュラ
武力です。
鬼が人とただ違うだけならば、
すでに滅んでいたでしょう。
シュラ
我らの異形は、強さの表れ。
強いからこそ我らは生き抜いた。
キャトラ
戦い続けるしかないんですか？
シュラ
今のままではそうでしょう。
最近は少しだけ状況が
変わる兆しはありますが。
アイリス
だったら話しあう
余地がありますよね？
シュラ
もちろんです。だが交渉というのは
おおむね戦と同じこと。
シュラ
下手な妥協をすれば、鬼ヶ島の民は
苦しみを背負う。
シュラ
戦とは強いものが殺しあうもの。
だが交渉に負ければ、弱い物から
死んでいくことになります。
キャトラ
仲良くはできないの？
シュラ
不可能ではないでしょう。
でもそれは、遠い未来の
ことでしょうね。
シュラ
……そしてこのシュラは武人。
いつか起こる戦に備えるものです。
思い出5
キャトラ
どうしたの、シュラ。
なんか悲しそう。
シュラ
少々面白くないことがあったのです。
アイリス
どうしたんですか？
シュラ
幼馴染と口げんかをしましてね。
『なんとあきれた石頭じゃ』
などといわれました。
キャトラ
……ガンコだもんね、アンタ。
シュラ
我々鬼は人から嫌われてます。
キャトラ
そうみたいね。
アタシらはそうでもないけど。
シュラ
つい先日、ある島に赴いたところ、
人間の少年に刀で
斬りかかられました。
シュラ
人間の世界を歩いていれば、
よくあることですけどね。
アイリス
シュラさん、その子を……
シュラ
とりあえず刀を奪いました。
そして、問いただしました。
シュラ
『何故このシュラを襲うのか』と。
シュラ
少年はいいました。
『俺の父親は、蒼の鬼神に
殺された』と。
キャトラ
蒼の鬼神……？
シュラ
私の二つ名です。
聞けば少年の父は
鬼ヶ島を攻めた人間の兵でした。
アイリス
それじゃあ……
シュラ
おそらく私が、少年の父を
殺したのでしょう。
キャトラ
アンタ、その子どうしたのよ。
シュラ
――斬ってやるつもりでした。
シュラ
少年は鬼を憎んでいる。
長ずれば、いずれ我らの
敵となるでしょう。
シュラ
武人として、
禍根は立たねばなりません。
シュラ
しかし、そこに駆けつけた
幼馴染は、私を止めたのです。
シュラ
幼馴染はこう言いました。
『おぬしの考えは人と同じじゃ』と。
シュラ
……私は、
刀を振るえなくなりました。
アイリス
よかった……
シュラ
良くはありません。
……私は、初めて
迷いを覚えたのです。
シュラ
私はなぜ……彼を
斬れなかったのでしょうね？
思い出6
シュラ
この光、なるほど、ルーンの
光ですか。
シュラ
主人公どの、
お心遣い感謝いたします。
シュラ
だが私に、かようなことは
不要。もうこの私に
迷いはありません。
キャトラ
じゃあ、どうするわけ……？
シュラ
とりあえずあの少年に
告げようと思います。
シュラ
『蒼の鬼神と戦いたくば、
戦場に来い』と。
アイリス
その子とも戦うんですか、
シュラさん。
シュラ
無論です。
だがそれは、戦となればの話。
シュラ
それまでは、この私が少年を斬る
道理はありません。
キャトラ
人間とは、戦いを続けるのね……
シュラ
もちろんです。
私は百鬼夜行を率いる
鬼の武人。戦いが生業です。
シュラ
しかし鬼は、戦うだけが能では
ありません。私の幼馴染のように
策に長けたものもおります。
シュラ
あいつだったら、面白い策を
思いつくかもしれません。
アイリス
戦争以外の解決方法を、
探そうとしているんですか？
シュラ
ええ。戦よりもえげつなく、
人にとっては受け入れがたい
解決方法をね。
キャトラ
……いったい何を
考えてるワケ！？
シュラ
私の幼馴染は、
なかなかの陰謀家です。
ましてあいつは言葉を操る。
シュラ
じきに、面白いことに
なるかもしれませんよ。
キャトラ
コワいわね……
ところでお土産のクッキーが
できたんだけど。
シュラ
ほう。それは興味深い……
む、このクッキーは、キャトラ殿の
顔をかたどっているのですか？
キャトラ
そーよ。
なんか恥ずかしいから
アタシは反対したんだけど。
シュラ
……一言でいえば、まだまだですね。
シュラ
だいたい猫の顔なんて
ありふれています。
一つください。
キャトラ＆アイリス
買うのね！？
